2009.03.29
最近は遺伝性疾患の原因遺伝子が発見されるようになり治療法が変わりつつあります。下顎前突とか上顎前突といったものは未だに同定されてはいませんが、おそらくこれは複合型なので一つ遺伝子ということはないでしょう。
こういった遺伝子レベルの話は最初はCellやSicience、Natureなどいわゆる超一流の三大ジャーナルに発表されるが、これら論文を読むのは私たちには大変なことです。そこで少しでもと思いNature ダイジエストという日本語でアブストラクトを掲載してくれる雑誌を購読しています。以前は日経サイエンスなんかも読んでいました。経験した患者さんのことを記載します。
その患者さんとは10年を超えるお付き合いです。しかし歯科の治療を受けたのは成人を過ぎてからのことです。鎖骨頭蓋異骨症と診断されていました。この診断は医科でおこなったものです。歯科領域に大きな影響がある常染色体優性の遺伝性疾患です。しかし必ず親御様の形質を受け継ぐわけではなく初代ということもあります。私が拝見している患者さんはその初代になります。
これは鎖骨と頭蓋が形成不全になる大変わかりやすい疾患です。そしてお口の中は乳歯が成人になるまで残存し歯のはえかわりがおくれます。上顎骨の成長が悪く下顎前突になります。もちろん状態によってこの症状はかわります。
しかし彼女は、成人になってからはじめて治療を始めました。なぜ???。これは歯科医の不勉強です。もちろん義務教育には歯科検診があります。すべての歯が乳歯だったので検診を受けるのはいやだったそうです。しかし、治療のことは特に言われらなかったそうです。おかしい。まっておかしい。なぜ言及されなかったんだろうか?そんなバカな。
明らかな疾患です。こんな知識もない人が校医をしているのに怒りを感じました。同時に失望も感じました。彼女は成人になってから歯の牽引を始め、10年ほどしてすべての歯の牽引を終了しました。同じようなことがまたどこかであるかもしれない。その疾患に対するしっかりとした知識がないために治療のスタートが遅れる。これは避けられる不幸なことです。
今は多くの遺伝性疾患が健康保険で矯正治療を受けられます。そのことだけはせめて伝えてほしい。鎖骨頭蓋異骨症の原因遺伝子はRunx2です。これは1997年のCellに掲載されています。現在、Runx2は骨芽細胞のマスター遺伝子とも言われています。だから膜性骨化が強く原因を受けます。そこで上顎骨の成長が悪くなります。さらに軟骨の形成にも影響します。
今年のNature geneticsにはピーエールロバンの原因遺伝子はSox9ではないかという論文が記載されました。これは小顎症が特徴で今度は軟骨内骨化が影響を強く受け下顎骨がその影響を受けます。鎖骨頭蓋異骨症とは逆になります。
分子生物学が臨床とリンクするようになることは素晴らしいことです。私の尊敬する先生がおしゃいました。“いつも高いところにアンテナをもっていないといけない”。“世の中は早く動いている。歯科医も学問しないといけないよ”っと強く言われたことを思い出しました。私も患者さんに迷惑をおかけしないように開業してからも自分なりに勉強しています。その遺伝子が何をしているか?今これがわかる時代になりました。これで治療も除所に変わっていくことでしょう。
患者さんやその疾患にできることできないことをはっきり見きわめ力のかぎり治療をします。科学や分子生物学に取り残されてはいけません。インターネットは多くの情報を得る手段として有能です。もともとそういったものでした。